過払い金|賃料の消滅時効を巡る争い

ストレス
反応
尿中

主 文

1 被告は,原告に対し,47万1400円及びこれに対する平成12年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを20分し,その17を原告の負担とし,その3を被告の負担とする。
4 この判決は,1,3項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

被告は,原告に対し,323万3800円及びこれに対する平成12年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,原告が被告に対し未払賃料及びこれに対する弁済期の経過した後である平成12年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。
1 争いのない事実
(1) 原告の母Aは,昭和44年9月20日,被告の夫であるBに対し,別紙物件目録1記載の建物(以下「本件建物」という)の1階部分(以下「本件建物部分」という)を以下の条件で貸し渡した。
期 間 昭和44年9月20日から3年間
賃 料 月6万円
支払方法 毎月末日限り翌月分を持参払い
敷 金 200万円。
ただし,明渡時に敷引として1割を控除する。
更 新 期間満了の際,当事者双方の協議により更新できる。
その後,原告は賃貸人の地位を,被告は賃借人の地位をそれぞれ相続した。
被告は,本件建物部分において,ブティックを経営していた。
本件建物部分の賃料は昭和63年5月分から11万4000円に改定された。
(2) 本件建物の敷地は,C所有地であり,原告が借地していたが,Cは原告に対し,平成5年1月6日,賃料不払いを理由に借地契約を解除し,建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。
同訴訟の控訴審判決(以下「本件控訴審判決1」という)は,本件建物収去土地明渡しを認め,かつ,平成4年11月1日から平成5年1月6日までは賃料,翌7日から建物収去土地明渡済みまでは賃料相当損害金として1か月5万0400円の割合による金員の支払いを命じるものであり,平成6年9月に確定した。
(3) また,Cは,被告に対しても,平成6年8月ころ,本件建物部分退去本件土地明渡等を求める訴えを提起したが,平成7年9月12日,以下の内容の裁判上の和解(以下「本件和解」という)が成立した。
被告は,Cに対して,本件建物部分退去本件土地明渡義務があることを認める。
Cは,被告に対し,平成17年9月末日まで上記退去明渡を猶予する。
ただし,同期日までに都市計画事業等によって本件建物が解体されるときはその時期までとする。
被告はCに対して次の割合の損害金を支払う。
平成6年9月1日(ただし,甲8号証によれば平成7年10月1日)から同9年9月末日まで1か月当たり7万円ずつ
平成9年10月1日から同11年9月末日まで1か月当たり8万0500円ずつ
平成11年10月1日から同13年9月末日まで1か月当たり9万2600円ずつ
平成13年10月1日から同15年9月末日まで1か月当たり10万6500円ずつ
平成15年10月1日から同17年9月末日まで1か月当たり12万2500円ずつ
被告が上記支払を怠り,滞納額が3か月分に達したときは,被告は,即時本件建物部分から退去し,Cに対し本件土地を明け渡す。
(4) 被告は,Cに対し,本件和解に基づき,平成6年9月1日から同9年7月末日まで1か月当たり7万円の損害金を支払った。
しかしながら,被告は,原告に対しては,平成6年9月1日以降の本件建物部分の賃料を支払わなかった。
もっとも,原告も,Cに対して,同日以降の賃料相当損害金を支払わなかった。
(5) 原告は,被告に対し,本件建物部分の平成6年9月分以降の賃料の支払いを求める訴訟を平成8年2月に提起した。
これに対して,被告は,原告に対し,本件建物部分の賃貸借契約は終了したとして敷金の返還を求める反訴を提起した。
平成10年3月12日に言い渡された同訴訟の控訴審の判決(以下「本件控訴審判決2」という)は,被告が本件建物部分の明渡しを猶予されている間は,本件建物の収去は不可能であるから,明渡猶予の間本件建物は存続し,被告が使用収益していることを理由に,本件建物部分の賃貸借契約は存続しているとして,平成6年9月1日以降も約定賃料月額11万4000円の請求を認めた。
しかしながら,本件控訴審判決2は,他方で,被告が上記和解に基づいてCに支払った損害金の内,原告がCとの訴訟で支払い
を命じられた月額5万0400円の限度で求償権が発生するものとし,被告から原告に対する同求償金債権を自働債権とし,本件建物部分の賃料債権を受働債権とする相殺を認め,平成6年9月から平成9年7月までの35か月分の本件土地の使用損害金の支払いから生じる求償権を176万4000円とし,平成6年9月1日から口頭弁論終結時である平成9年10月17日までの本件建物部分の賃料(月額11万4000円)を428万0516円とした上で,相殺後に残る賃料251万6516円の支払いを被告に命じた。
本件控訴審判決2は平成12年12月19日ころ確定した。
(6) 原告と被告は,平成13年1月,本件控訴審判決2に基づき,金銭の精算をすることにして,敷引き後の敷金残金180万円と上記賃料残額251万6516円の差額について,原告が被告から支払いを受けた。
被告は,平成12年2月末日本件建物部分を明け渡した。
(7) 原告は,本件控訴審判決2を前提に,同判決で認容された期間以降である,平成9年10月18日から,被告の本件建物部分明渡日(平成12年2月末日)までの間の本件建物部分の未払賃料(1か月当たり11万4000円)について支払いを求めたが,被告はこれに応じない。
そこで,原告は,被告に対し,本件建物部分の賃料に関し,平成9年10月18日から,本件建物部分を退去した平成12年2月末日までの間(2年4か月と11日分の日割り)の未払賃料の合計である323万3800円及びこれに対する各賃料の支払期限の経過した後である同年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 争点
(1) 消滅時効
(被告の主張)
原告の内容証明による請求が被告に到達したのは平成15年1月28日である。
賃料債権は5年間行使しないことにより時効消滅するので,被告は平成10年1月28日以前の賃料債権につき消滅時効を援用する。
(原告の認否反論)
原告の書面による請求が被告に到達したのが平成15年1月28日であることは認めるが,消滅時効の主張については争う。
(2) 事務管理費用求償請求権との相殺
(被告の主張)
被告は,Cからの訴えに応訴して本件和解に持ち込み,本件建物部分の明渡しを猶予させたことにより,本件建物を存続させた。
本件建物を存続させることは本来所有者である原告の被告に対する義務であり,被告の義務ではないので,被告は義務なくして,原告のために本件建物を存続させたものである(事務管理)。
したがって,被告は,事務管理者として支出した本件建物を存続させるための有益費用の償還を原告に請求することができる。
有益費用は,以下のとおり,地主に支払った費用及び地主と和解するために支出した弁護士費用である。
平成6年9月1日から平成9年9月末日まで(37か月)
1か月7万円 計259万円
平成9年10月1日から平成11年9月末日まで(24か月)
1か月8万0500円 計193万2000円
平成11年10月1日から平成12年2月末日まで(5か月)
1か月9万2600円 計46万3000円
別訴事件に応訴するために訴訟代理人弁護士に支払った着手金30万円,謝金20万円 計50万円
なお,以上のうち,平成6年9月1日から平成9年10月17日まで1か月5万0400円の割合による計189万2438円は既に相殺に供したので,残額は359万2562円である。
よって,被告は,上記事務管理のための有益費359万2562円の償還請求権と,原告の請求する賃料債権を対当額で相殺する。
なお,原告は,事務管理が成立するとしても,被告がCに支払った損害金のうち原告にとって有益といえるのは原告がCに対して支払義務を負う5万0400円までであって,これを超えて支払われた金額部分については原告は利益を得たとはいえず,有益費には当たらないと主張するけれども,原告は,被告がCと和解し,上記費用を支払ったことによって,Cに対する5万0400円の支払いを免れたのみならず,本件建物の解体費用,被告に対する敷金全額の返還債務,本件建物部分賃貸借契約の債務不履行によって被告に支払うべき,被告の経営するブティックの営業利益,移転費用等の損害賠償債務という多額の出捐を免れることができたのであるから,原告の主張は失当である。
(原告の認否反論)
被告の主張を否認する。
被告の主張は,事務管理の成立要件のうち,1他人の事務を管理したこと,2他人のためにする意思があること,3管理が本人の意思に反すること又は本人に不利であることが明らかでないことの各要件を欠くので,事務管理は成立しない。
1 被告のCに対する損害金の支払いは,被告とCの間で自ら負担した本件和解に基づく義務の履行であって,原告の義務を被告が代わって履行したものではないから,他人の事務の管理ではない。
2 被告がCに損害金を支払ったのは,被告が自ら本件建物部分からの退去を強制されることを免れるためであって,原告のためにする意思はなかった。
したがって,被告は本件建物部分退去後は,損害金を支払っていない。
3 被告がCに支払った損害金は,原告がCに支払うべき損害金(1か月当たり5万0400円)よりもはるかに高額であって,かかる高額な損害金を支払ってまで本件建物を存続させることが原告の意思に反することは明らかである。
このような高額の損害金を,被告がCとの間で取り決めたからといって,それを原告が負担しなければならないというのは,事務管理の趣旨である公平の理念に反する。
仮に事務管理の要件を充たしているとしても,被告がCに支払った損害金のうち原告にとって有益といえるのは原告がCに対して支払義務を負う5万0400円までであって,これを超えて支払われた金額部分については原告は利益を得たとはいえず,有益費には当たらない。
よって,被告のCに対する損害金等の支払いについては,原告に対する関係で事務管理には当たらないし,仮に当たるとすれば,有益費は1か月5万0400円の限度にとどまる。

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第3 争点に対する判断

1 消滅時効について
被告は賃料債権の消滅時効期間は5年間であると主張するが,5年間の消滅時効が認められるのは,賃貸目的で取得又は賃借した動産・不動産の賃貸を営業として行った場合に限られるところ(商法502条1号),本件建物部分の賃貸がこれに当たることを認めるに足りる証拠はないから,原告の請求する賃料債権は10年間の消滅時効(民法167条1項)にかかると解すべきである。
そうすると,原告の請求する平成9年10月18日以降の賃料債権についてはいすれも未だに時効期間を経過していないから,被告の消滅時効の抗弁を認めることはできない。
そして,平成9年10月18日から平成12年2月末日までの未払賃料額は324万3484円(11万4000円×2年4か月+11万4000円×14日÷31日)であるが,原告は323万3800円を請求しているので,一部請求として扱い,その限度で請求を認める。
従って,原告は,被告に対し,323万3800円及びこれに対する各賃料の弁済期を経過した後である平成12年3月末日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求することができる。
2 事務管理費用求償請求権との相殺について
(1) 原告は,被告との間の賃貸借契約に基づいて本件建物部分を使用収益させる義務を負う一方で,本件建物を被告に賃貸することによって賃料収入を得ることができるのであるから,本件建物を存続させることは原告の事務と認められる。
そして,被告は,Cが提起した本件建物部分明渡請求訴訟に応訴して本件和解を成立させ,同和解に基づいてCに対して損害金を支払うことによって,同損害金を支払っている間,本件建物の収去を防ぎ,これを存続させたのであるから,被告の以上の行為は原告に対する事務管理と認めることができる。
以上の認定に反して,原告は,被告の上記行為は,自らのために行ったものであって,他人のためにする意思という事務管理の要件を欠くというが,被告自らのためにする意思と原告のためにする意思は併存し得るものであるし,現に,上記のとおり,客観的に原告の事務と認められる事務を行っている以上,原告のためにする意思の存在を認めることができるというべきである。
また,原告は,被告の上記事務管理行為は出捐額が高価すぎるから,原告の意思に反し,又は原告に不利であることが明らかであると主張する。
たしかに,従前原告がCに対して支払っていた地代(月5万0400円)と比較すると,被告が請求する費用は高額であるが,被告の事務管理の結果,原告は,後述のとおり,被告に対する損害賠償責任を免れるなどの利益を得て
いるのであるから,従前の地代額と単純に比較して高額であるからといって原告の意思に反し,又は原告に不利であることが明らかであると認めることはできない。
原告にとって高額に過ぎる費用償還の問題は,後述のとおり,民法702条3項を適用し,現に利益を受ける限度においてのみ,費用償還を認めることで対応すれば足りると解する。
(2) そして,上記事務管理のための費用として,被告は,以下のとおり,合計548万5000円を支払ったことが認められる(弁論の全趣旨)。
平成6年9月1日から平成9年9月末日まで(37か月)
1か月7万円 計259万円
平成9年10月1日から平成11年9月末日まで(24か月)
1か月8万0500円 計193万2000円
平成11年10月1日から平成12年2月末日まで(5か月)
1か月9万2600円 計46万3000円
別訴事件に応訴するために訴訟代理人弁護士に支払った着手金30万円,謝金20万円 計50万円
(3) 事務管理者は本人に対して費用の償還を請求することができるものの(民法702条1項),管理者が本人の意思に反して管理を為したるときは,本人は,現存利益の限度で費用を償還すれば足りる(同条3項)。
そして,上記のとおり,被告が本件和解に従ってCに支払った損害金の額が,原告がCに支払っていた地代(5万0400円)と比較すると相当高額であることに照らすと,被告の事務管理は,原告の意思に反することが明らかであるとまではいえないが,なおその意思に反する場合に当たると解することかできるから,原告は,現存利益の範囲で費用を償還すれば足りると認める。
そこで,被告の事務管理によって原告が現に利益を受けた金額を検討する。
1 まず,原告は,上記事務管理によって,Cに対して支払うべき賃料相当損害金332万6400円の支払いを免れたことが認められる(月5万0400円×66か月)。
2 また,原告は,本来,賃貸人の債務不履行の結果,敷金200万円全額を被告に返還すべきところ,被告の事務管理の結果,1割の敷引分(20万円)の返還義務を免れ,20万円を利得したことが認められる。
3 さらに,原告は,本来であれば,本件建物部分を被告に使用収益させる義務が履行不能に陥ったことにより,賃貸人の債務不履行に基づく損害賠償として,被告に対し,本件建物部分において被告が営んでいたブティックの営業損,同店の移転補償費用等の積極,消極損害について賠償義務を負うべきところが,被告の事務管理の結果,これを免れたことが認められる。
もっとも,その具体的金額を認定するに足りる証拠はないが,民事訴訟法248条により,少なくとも100万円を下回ることはないと認める。
4 なお,被告は,被告の事務管理の結果,原告が本件建物の解体費用の支払いを免れることができたと主張するけれども,かかる因果関係を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,被告の事務管理の結果,原告が受益した金額は合計452万6400円と認められるから,原告が被告に費用償還すべき金額は同額に限られるということになる。
そして,被告が,以上の債権のうち,平成6年9月分から平成9年7月分まで1か月5万0400円の割合による176万4000円の債権を既に相殺に供したことについては争いがないので,上記費用償還請求額からこれを控除すると276万2400円となる。
よって,被告は原告に対して,276万2400円の反対債権を有することが認められる。
3 相殺
そうすると,原告は被告に対し,323万3800円及びこれに対する各賃料の弁済期を経過した後である平成12年3月末日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を請求することができるものの,他方で,被告は原告に対し276万2400円の反対債権を有するから,相殺適状が生じた時点(被告が本件建物部分を退去した平成12年2月末日と推認する)の時点において両債権を対等額で相殺すると,原告は被告に対し,47万1400円及びこれに対する弁済期の経過した後である平成12年3月1日から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めることができる。
4 以上の次第で,原告の請求を一部認容する

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